アクロージュファニチャー

一生ものの家具を作るという生業/岸邦明

2018年1月8日

神楽坂に移転し、1年半が経ちました。

まだ新参ものですが、とても住み易く、良い街だと思っています。

入り組んだ路地が広がる坂が多い街の中心に、一本の商店街が繋がっています。

大きな資本が入ることはあまりなく、小さな商店が今も多く残っています。

訪れる人は多く、小さなイベントも良く行われ、今や数少なくなった賑わいのある商店街が

神楽坂の中心にはあります。

一方それを囲むエリアは、静かな住宅街や一部の工場地域です。

私が住んでいる神楽坂の南側のエリアは、ここが都心なのかと思うほど静かで普通の場所です。

反対の工房がある北側のエリアには印刷工場が多く残り、職人や職工がいる活気ある場所です。

そして住んでいる人々が口を揃えて、

「神楽坂は良い街ですね」「神楽坂大好きなんです」と言われます。

「こんなに住んでいるところが好きな人が集まっている街があるんだな~」が第一印象でした。

「こうした街に木工を通してしっかりと根付けたら素敵だろうな」と思っています。

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私たちが作る家具や木工品は一生使えるようなものばかりです。

どれも数十年は使用できますし、メンテナンスさえすれば数百年使えます。

これも言葉としては普通のセリフのようですが、私たちの身の回りに数十年、

数百年使い続けられるものはどのくらいありますか。

それも、もし不具合が出てもメンテナンスをしながら使い続けたいと思うもの。

私たちが作っている木工品の多くは、そんなお客様の想いが一杯詰まったものばかりです。

長く使い続けられるように作り上げたひとつひとつは、全て私が責任を持ち、

メンテナンスしていくことになります。

そのため、工房を構えてから十数年、お客様との打ち合わせと納品にはすべて私も行っています。

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10年以上工房を構え制作してきました。

そろそろメンテナンスが必要なものや不具合が生じたものが出て来ても、おかしくない頃です。

この2年で2件、テーブルのメンテナンス依頼がありました。

1件目は、大きな一枚板のケヤキが10年近く経って、大きな音とともに木口に割れが入りました。

お客様と一緒に銘木店で選んだ一枚板。元々木口に割れが何か所かありました。

「将来的に割れが広がることもあるかも知れませんが、割れを埋めたり、

これ以上広がらないようには対応します」とお約束し、納めたものでした。

お伺いし、その場で一日掛かりで修繕しました。

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2件目も天板の割れでした。「ホワイトオークの厚い板目でテーブルを作ってほしい」

設計士の自宅使用のオーダーで、図面もあり、リクエストも明確でした。

ただ、無垢家具にとっての一番の難敵と言える床暖房の家でした。

ホワイトオークの板目は割れ易く、床暖房の上では使用しない方が無難です。

「1割以上の確立で、裏に割れが入るかと思います。それが表にまで広がることも考えられます」

「割れた場合再接着します。基本的にはきれいに直せるはずです」

そう説明し、ご了承いただいた上で納めたものでした。工房に引き上げメンテナンスし、

「全く割れた場所が分からなくなるものなのですね。むしろ全体をきれいにしてくれて申し訳ないです」

 

将来の不具合の可能性は職人として分かるようになっています。

それを制作前にお伝えし、了承を得た上でオーダーメイドは納められていきます。

たかが家具かも知れませんが、納めるまでにお客様との間に信頼関係を築き、

何年経っても不具合があれば、メンテナンスしていく訳です。

責任をもって、対応していかなくてはなりません。

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都心も都心、皇居から徒歩圏内の神楽坂に工房を構えました。

ここからだと高速を使えば1時間程度でかなりの範囲に行くことができます。

こうした気持ちでしっかりとした家具を作り納め、一生のお付き合いをしていく。

それが家具づくりの基本なのだと思います。

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