神楽坂木工教室への道/岸邦明
2018年1月7日
神楽坂に移転した理由のひとつは木工教室でした。
既に10年ほど、私自身は木工教室を開催してきました。
ただ、お弟子たちにはさせていませんでした。
技術的なものもありましたが、うまく生徒に伝えることができないのではという思いが主たる理由でした。
教えるということは、自分ができるだけでなく、なぜできるかを言葉にしなくてはなりません。
なぜできないかを言葉にし、どうすればできるようになるかを言葉にしなくてはなりません。
木工教室の講師をするには、こうしたコミュニケーション能力が必要になります。
それを、木工職人を目指すお弟子たちが覚える必要があるのか、そもそも本当に必要なものなのか、
重要なものなのか、答えが出せずにいました。
工房全体を見直す作業を始めたとき、木工教室も見つめ直しました。お弟子のためになるのか否か。
お弟子たちとも話し合いを重ね、その答えは「やろう!」でした。
前回書きました「伝える努力が足りないんじゃないの」が決め手でした。
私のところで真摯に制作を続けていれば、「作る技術」は身についていくはずです。
しかし「表現する力」は作るだけでは難しいかも知れません。
「自分は何を想い、目指し、努力し、お客様のためにやっているのか」
独立し、自分自身で工房を持ち、制作していくときになって、
そこをどのようにお客様に伝えていくのかがとても重要になっていきます。
自分の想いや考えを伝える力を身につけてほしいのです。
お弟子のひとりは新卒のため社会人経験も弊社だけだったりします。
技術だけでなく、社会人としても育てていく必要があります。
木工教室は生徒に木工の技術を伝えていく中で、私たちもそうしたものを学ばせていただいています。
生徒に技術を見せながら、その技術を言葉にしていき、できるように伝えていく。
その工程はお弟子を育てるのと、とても似ています。
お弟子たちが独立し、それが軌道に乗り、お弟子が必要となったとき、この経験が役に立つはずです。
同じように木工教室を開催することもできます。
東京に移転しても、木工教室は続けることにしました。
今まではお弟子たちが休みとなる週末や夜に教室を行っていました。
制作と同じスペースで行っていたので、片付け準備等不便もありました。
お弟子も取り組むならば、よりしっかりとした教室にしよう!
教室専用のスペースや道具や工具も用意します。
専用スペースを設ける訳ですから、行う曜日も増やす必要があります。
より多くの生徒が通い易い場所にすることにしました。
その答えが神楽坂でした。
木工教室の生徒は現在約200名になっています。
講師陣は7名います。
普段はオーダーメイドの家具を作っているお弟子たちも、月に4回から6回は教室に入り、講師をします。
講師の誰もが、刃物を正しく砥げ、手加工がしっかりでき、言葉で技術を伝えることができます。
木工をしていない方からすると普通のことに思うかも知れませんが、
現代木工のご時世、刃物が正しく砥げ、手加工がしっかりできる木工職人は
全体の1%もいないと思います。
普段、無垢のオーダーメイド家具を制作している現役バリバリの家具職人が
木工教室の講師をしています。
ちょっとした私たちの誇りです。
ここまでの道のりは楽ではありませんでしたが、この講師陣はとても素晴らしいチームとなっています。