アクロージュファニチャー

コロナ禍で日本の家具業界はどうなるのでしょうか(11日加筆)

2021年1月9日

新型コロナの影響で、世の中はどうなっていくのでしょうか。

学生の時にバブルの崩壊を迎えた私としては、バブル絶頂期から崩壊後の10年と、今を重ね合わせて考えてしまいます。

あの時は、なんだかんだで景気は急には悪くならず、じわりじわりとこれでもかと苦しくなっていきました。

 

最近やっと少し日本の経済が力強くなってきた矢先の今回の新型コロナ。

これまでの経験がいろいろと活かされ、昔に比べれば素早く財政出動が行われています。

そのお陰で、表面的には経済は平穏を保っているように見えます。

株価は上がり、不動産取引も活発。

金融系の大学時代の仲間は大きく利益を出しています。

 

私の世界である家具職。今や低所得の職業です。

厚生労働省の調べによると、平均年齢や給与は、44歳で320万円ほど。

全産業の平均より200万円近く低いレベルです。

建築系の大工やとび職、左官、建具などの職種の中でも、最も家具職が薄給です。

 

理由は色々考えられますが、私の中では、家具はメイド イン ジャパンである必要がないことが大きいと思っています。

他の建築系はあくまでも国内での競争です。

しかし、家具だけはここ20年ほどで、海外生産が主流になっていきました。

 

巣ごもり需要として、ニトリやIKEAが絶好調との話題を連日耳にします。

しかし、日本を代表する総合家具メーカーである飛騨産業や柏木工は、実は大変厳しい状況に陥っています。

仕事がないので、週休3日や臨時休業が続いていて、残業もなく、来年の採用も見合わせました。

世界一安い材料、安い人件費で作り上げた「お値段以上」の自社工場を持たない家具販売会社は活況を呈していますが、真面目に、日本で日本人が作った家具は売れずに苦しんでいます。

 

こうした状況になった背景には、家具の不思議で可哀そうな立ち位置が関係しています。

通販大手のニッセンやベルメゾンなどは家具も扱っていますが、家具単体では赤字だそうです。

以前、テレビ番組でニッセンの社長が言っていましたが、家具は赤字でも、写真映えさせるために家具が必要とのことです。

それでもあまりに赤字がひどくなった通販会社では、家具の取り扱いから撤退すると言うニュースを定期的に耳にします。

通販業界の常識として、家具は他の商材に比べ、管理コストが高すぎるそうです。

 

それは店舗を有する無印良品やニトリでも同じようなことが言えます。

数年前のテレビインタビューでニトリの社長が言っていました。

「家具単体は利益が出ていません。家具では利益が出なくても良いのです。

ベッド自体の販売で利益が出なくても、布団やシーツで利益が出るので十分」とのこと。

利益の柱であるインテリアが1階。客寄せパンダの家具が2階の戦略だそうです。

それはホームセンターも同じです。

ニトリやIKEA、無印良品のような、総合インテリア販売会社が好調なのに対し、

大塚家具のような家具専門販売会社は右肩下がりが続いています。

完全に家具の存在や売り方は変わったと言えます。

 

オーダーメイドの世界で言えば、日本のTOPは、三越製作所や清水建設木工所になります。

以前、社員さんたちにお話を伺えたときのことではありますが、どちらも単体では赤字だそうです。

皇室や財閥御用達で、日本一高い家具を作っている会社も、家具部門は赤字なのです。

家具は赤字でもOK。建物やカーテン、絨毯、テーブルウエアなどで利益を出すので、会社全体としては必要な「切り込み隊長」として存在しているそうです。

 

世の大企業の経営者たちは、ここ20年位掛け「家具で利益が出なくてもよい」というシステムを作り上げてきました。

「携帯電話を安く売って、通話料で利益を出す」

「コピー機を安く売って、カートリッジで利益を出す」

そうした販売手法が形を変えて家具業界にも入り込み、

「家具を安く売って集客し、インテリア雑貨で利益を出す」が本流となったのです。

その影響を大きく受け、家具製造の専門企業は苦しみが深刻化しています。

仕事としてはやりがいがあり、ものづくりの喜びもあります。

しかし、そこで働く人たちは薄給に拍車が掛かっています。

世の中の給与が緩やかながらも上がっていくのを尻目に、輸入家具の影響で家具全体の価格は下がり、給与も下がり続けています。

 

日本を代表する飛騨産業や柏木工は高度経済成長下で大きく成長し、しっかりとした基盤を既に有しています。

そのようなメーカーが苦しんでいるのですから、我々のような小さな新興木工所はさらに苦しい状況にあるのではないでしょうか。

 

私の木工仲間の一人は、同じ頃に独立し、今や社員が30名程いる特注家具の木工所を営んでいます。

この成熟し切っている産業で、新たに30名以上の規模となる木工所ができることは稀です。

年商数億。積極的な投資によって、更なる拡大を目指していました。

しかし、新型コロナが生じてから、売上は激減し、5割以下で苦しみ続けています。

更には、価格競争が異常レベルで激化。

これまでの8割の水準の見積もりでは通らなくなり、6割が横行しているそうです。

利益が出る水準ではなく、クライアントの方が「安すぎるけど大丈夫なのか」と首を傾げる状態だとか。

 

「幸い」と言ってしまって良いのか分かりませんが、今、借り入れも異常と言えるほど、容易になっています。

年間売上と同じ額の借り入れをし、毎月1000万円以上増えていく赤字に耐えています……

 

そう言う私も借り入れをしました。

これまでなら借りることができなかったような大きな金額です。

15年以上掛け、作り上げてきた家具工房です。

ここで閉じる訳にはいきません。

 

今回の新型コロナの影響は、一部の業種に特に強く生じています。

その崩壊している産業が、現時点において、バブル崩壊時とは違います。

昨日のテレビで、新型コロナでの経済への影響をエコノミストが言っていました。

「人口では4割を占めますが、経済への影響で言えば1割程度です」

何とも悲しい状況です。

飲食業、宿泊業、旅行業、小売業などは産業別で言えば、平均を下回る給与の職業ばかりです。

そうした元々自分たちなりに必死に働いていながらも、時代の流れの中で薄給である産業に影響が色濃く出ています。

 

「自由競争」や「需要と供給」で言えば、どれも昔ながらの産業で、時代の変化の中で「そもそも需要が無くなって来ていたのだから」なのかも知れません。

それでも、「何でこうした産業になのか」と思わずにはいられません。

しかし、新たな元気な産業があればこそ、コロナ渦の不況から早く立ち直れるのも事実です。

 

昨日22時頃、高田馬場から神楽坂まで早稲田通りを車で抜けました。

初めての光景でした。

コンビニと牛丼屋、薬局以外はほぼ全て閉まっていました。

ゴーストタウンです。

飲食業の方たちには、186万円の給付金が一定程度役立つはずです。

 

多くの飲食業の経営者が多額の借り入れをして、今を凌いでいるのだと思います。

先日の首相の演説で、「どんどん利用してください」と言われていました。

確かに簡単に今はお金が借りられます。

しかし、借入は当たり前ですが返さなくてはなりません。

新型コロナの影響がいつまで続くのか、コロナ後の世の中の消費動向はどうなっていくのか。

私を含めて、小規模零細企業の経営者、そしてそこで必死に働いてきた方々は、何とか返り咲かなくてはなりません。

負債を返済することは容易ではありません。

長い長い借金返済の日々の始まりです。

 

私の中で今、「借り入れバブル」が発生しているのではないかと思っています。

年間売上と匹敵するような額が、ほとんど審査もなく借りられる状況、それはバブル期の貸し付けを思い起こさせます。

バブル崩壊の後遺症が非常に長い年月を要したのは、その借り入れの多さがひとつの原因になったのではないでしょうか。

 

上場企業を中心とした大企業は、その後20年近く掛け、昇給を緩やかにすることを引き換えに、借入を減らし、内部留保を増やし、企業としての体力を付けてきたと思っています。

戦後約75年。多くの企業がこうして成熟期を迎え、企業倒産は減り、最悪でも合併という形で社員は守られるようになりました。

そのタイミングでの新型コロナ。日本にとって最悪は免れるのかも知れませんが、体力を付けた大手企業であっても、多くは大変なのだと思います。

ましてや、小規模零細企業の経営者は体力がないところが普通です。知り合いの幾人もが、一か八かで、とてつもない割合の借入を今してしまっています。

「借り入れバブル」です。

20代の頃、たかが2000万円の実家の借金を返済するのに苦しんだ経験が、私の根底にあります。

世の創業者と話をした際、「岸君は守りの経営者だね」と何度か言われたことがあります。

年間の僅かな最終利益から、税金を納め、それでやっと残ったものが、全てのように借入返済となり消えていく。

果てしない道のりの苦しみを経験した私は、ハイリスクを取ることを避けてきました。

 

小規模零細企業の創業者の多くは、その人なりの限界ぎりぎりの投資をして、今の仕事を起業しているのではないでしょうか。

ちょっとした規模の飲食であれば、その額は数千万円にはなりますし、私レベルの木工所でも同じような初期投資が必要です。

毎月何十万円の返済をしながらの経営。

「一度閉めた方が良いのでは?」と思われるかも知れませんが、返済は残りますし、撤退や再起動するために、また大きな費用が掛かります。

何年も掛け、全てをつぎ込んでやってきて、「コロナは1年か2年で終わるはず」と言われて、閉じたりなどできません。

顧客を失い、負債だけが残る。

周りの経営者とお話ししていると「生き残る」ことと並行して、「倒産」や「夜逃げ」の話題になります。

「あとはあそこが残っている」などと借りられる先を思案してもいます。

今、銀行に行くと、「あそこも利用しました?」などと、売上さえ落ちていれば貸してくれるところを教えてくれます。

そうした融資全ては国や都が利子を負担し、破綻しても国の機関が責任を持つシステムのようです。

銀行の貸し手リスクはなくなっています。完全に歯止めが利かなくなっているのではないでしょうか。

先が見通せないまま、ひたすら借りることを繰り返すことで、表面的には倒産件数が減ると言う珍現象が現在日本中で起きてしまっていると思っています。

表裏一体が続く中、大きな判断ミスをせず、致命傷を負わず、この数年を乗り越えられるのか。

これから何年、何十年も掛けて、やっとコロナ前の状況に戻っていくのか。

新型コロナの影響を強く受けてしまった私たちの将来を思うと、心が苦しくなります。

 

時代の流れが読めず、淘汰されたのであれば、経営者として納得するしかありません。

しかし、新型コロナによって人生が崩壊するのは、やはり悔しいです。

私の仲間の誰も、そのような状況になってほしくないです。

連絡を取り合い、情報を交換していますが、助け合えることは僅かです。

こうした中での再度の緊急事態宣言。

何とかして乗り越えてほしい。

願うことしかできません……

 

あ~あ。そんなネガティブな思考が私に日々降り注いできます。

「パッと呑みにでも行って」ができないなんてね……

新型コロナ、嫌いです。

 

岸邦明

 

 

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