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家具職人になる!家具職人になりたい!と本気で考えている方に [職業訓練校/職業能力開発センター木工技術科に行こう!]

2021年9月10日

「家具職人になる!家具職人になりたい!」と本気で考えている方は、長文ではありますが、ぜひ一度読んでみてください

毎年何人もの方が、「家具職人になりたいのですが」と問い合わせて来られます。

毎回、同じことをお伝えしていますので、一度整理して記してみることにしました。

 

「家具職人になる」「家具職に就く」方法を上げてみます。

1⃣木工所・家具工房等に直接就職する

2⃣美術大学や工芸大学などで学び、就職する

3⃣職業訓練校(職業能力開発センター)で学び、就職する

4⃣突然、自分自身で木工所や家具工房を開く

こうした方法が考えられます。

その中で私がお勧めしているのは3⃣の職業訓練校(職業能力開発センター)で学んだあと、就職する方法です。

 

3⃣のメリットをまずは箇条書きで記します。

①    日本の家具製作技術の基本であり、基準を学ぶことができる

②    幅広く、家具製作を仕事にするために必要な技術を学べる

手加工・機械加工・材料・製図・生産管理など)

③    特に手道具や手加工の技術をしっかり学べる

※そうした機会を、就職した後や独立した後に得ることは難しい

④    卒業できれば、二級技能士を取得できる技術や知識をほぼ手に入れたことになる

⑤    通っている期間、訓練手当等の国からの支援が受けられる

⑥    卒業後も、同期がいるので情報交換ができる

⑦    先輩や後輩ができ、会社を越えての上下のつながりを作れる

⑧    別の進路に行った同期の活躍を知り、人生における選択肢が生まれる

⑨    卒業生同士、同じ技術や知識を有しているので、共有できる価値が生まれる

 

少し異論も出るかも知れませんが、行かない場合のデメリットを記します。

①    基礎的な技術や知識を得ないまま職場に就くこととなる

②    単純作業や雑用などが、新入社員の時だけでなく、長く続いてしまう可能性が増す

※基礎技術がない人を採用すると言うことは、うがってみると、基礎技術や知識が無くても、活躍できる仕事があることになる

③    今の木工所は厳しい競争にさらされており、新入社員に幅広い教育や訓練を実施している余裕がないところがほとんど

④    限られた技能で仕事ができる分業化された職務に就き続ける可能性が増す

⑤    家具製作や独立するために必要な家具技術全体を理解する機会がなく、限られた職務をこなす中、自分の状況に盲目となってしまう

⑥    その結果、社内出世どころか転職や独立も難しくなる

 

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それでは、ひとつずつ具体的に説明します。

職業訓練校(職業能力開発センター)に行くメリット

①   日本の家具製作技術の基本であり、基準を学ぶことができる

職業訓練校(職業能力開発センター)は日本の家具製作技術の基本であり、基準を作り続けています。

まず「職業訓練校とは何か」から少し説明します。訓練校は職業能力開発促進法という法律に基づき、基本的に各都道府県にあります。

実は日本の家具製作に関わる様々な技術は、今から50年以上前の昭和44年に生まれたこの職業訓練校システムにより、全国的に統一されてきています

例えば、私たちが使用している木工機械は、戦後にアメリカから持ち込まれました。進駐軍の基地や住まいを作るのが主な目的でした。

その後、その機械も日本で製造するようになり、飛騨産業などの歴史ある日本の木工所に導入され、現代的な木工が始まった訳です。

木工の歴史はとても長い日本ですが、日本の洋建築や洋家具の歴史は、実はそれほど長くありません。

その家具製作に必要な技術や知識を日本全国に行き渡らせるために作られたのが職業訓練校です。

そのため日本中の主だったメーカーで活躍されている人は、この職業訓練校の卒業生だったりします。

結果、木工の技術はこの職業訓練校で学ぶことが基準となっていきました。

東京には私が通った品川(城南)と足立(城東)に木工技術科があり、家具製作を学ぶことができます。

 

②   幅広く、家具製作を仕事にするために必要な技術を学べる

(手加工・機械加工・材料・製図・生産管理など)

職業訓練校と言うくらいですから、「家具を製作することを仕事にしたい人」のために必要なものを教えています。

芸術やデザイン的な表現と言うよりは、家具製造のための技術が中心です。とは言え、それは多岐に渡ります。

1, 鑿や鉋、鋸など、日本の昔ながらの手道具の構造を理解し、正しく使えるようにする訓練

2, 実に様々な木工機械の構造や仕組みを学び、それらの機械を駆使しながら家具を作る訓練

3, 無垢の家具材や様々な合板、金物や接着剤など、家具製作に必要な材料を学び使う訓練

4, 家具の様々な仕上方法を学び、ガン吹き付け塗装のような本格的な家具塗装も行えるようにする訓練

5, 家具の構造やデザインなど、製作するために必要な図面を起こす訓練

6, 家具の安全基準や工場の安全対策、品質対策や設備管理、製作などの工程管理や原価管理など、家具工場での管理職が必要とする「ものづくりに関わる私たちが果たすべき様々な責任」の基本を学ぶ

7, 学園祭では、製造から塗装まで手掛けた初めての製品を一般の方に販売する機会を体験する

基本的に、卒業後はプロになる人が集まっている訳ですから、皆さん真剣です。まさに切磋琢磨な一年を送ることができます。

 

③   特に手道具や手加工の技術をしっかり学べる

※そうした機会を、就職した後や独立した後に得ることは難しい

実は現代木工においては、家具は機械だけで加工していくのが基本です。手加工が入ると、職人の能力で大きく差が生じるため、熟練工でなくてはならなくなります。また、量産体制における製作スピードはどうしても機械の方が上を行きます。

結果、現在は「機械で作れる家具しか作らない」ようになりました。現場では機械工が中心で、手加工は姿を消しました。

そのため、就職先で手加工の技術を学べるところは、かなり減ってしまいました。むしろ、何十年と家具を作っていても、手加工の技術はさっぱりの人の方が多い状況です。

職業訓練校は、今も手加工の技術を高めるための訓練に、一番多くの時間を割いています。就職後に身に付けることが難しくなった最低限の手加工の技術を、訓練校でしっかり学ぶ機会が持てたことは、将来ものづくりに向き合い続ける上において、とても重要になってくるはずです。

 

④   卒業できれば、二級技能士を取得できる技術や知識をほぼ手に入れたことになる

家具製作にも手加工と機械加工に分かれ、一級(国家資格)・二級(自治体資格)と言った技能資格があります。

ただ、建築士や電気・水道・ガスのように、資格を有したものでないと看板を上げられないということがありません。そのため、資格を有している職人や工場は1%にも満たないのが現状です。

それでも、この資格は家具製作に対する技術や知識、経験を有していることを証明する唯一の資格です。
それは加工技術のレベルを見る実技試験だけでなく、家具のデザインや構造、木材の性質や加工方法、機械の使い方や仕組、家具の安全基準や工場の安全対策、建築や建築素材に対する知識などなど、家具に係わるさまざまな知識を有しているかを試験されます。一級は実務経験5年以上と言う基準もあります。

訓練校で学ぶことは、まさにこの資格を取るために必要な訓練です。さらに言えば、訓練校で学ぶことが、この資格の基準になっています。

 

⑤   通っている期間、訓練手当等の国からの支援が受けられる

職業訓練校(職業能力開発センター)は、再就職するための公共機関です。ハローワークと連携しています。

訓練校に通っている期間は一般的な失業手当と同じような支援が受けられます。

通常なら3か月とかの方が、1年間支援を受けながら手に職を付けられる訳です。

私はそうした支援を有られない状況で訓練校に通いましたが、この支援は非常に大きな支えになるはずです。

 

⑥   卒業後も、同期がいるので情報交換ができる

大学を卒業しても、就職先はバラバラなはずです。しかし、職業訓練校(職業能力開発センター)の卒業生は基本的に全員が木工の仕事に進みます

それは専門的な美大や建築・デザイン系の学校の卒業後の状況とも違います。通常であれば同期30名程が同じ木工業界に就職していきます。

木工と知っても幅広い訳ですが、その様々な木工の道に就職していった同期と情報交換できれば、非常に幅広い知識を得ていくことができます

 

⑦   先輩や後輩ができ、会社を越えての上下のつながりを作れる

10名を超す規模の会社の中には、必ず訓練校の卒業生がいるはずです。ある先輩が活躍すれば、同じ訓練校に求人を出すので、訓練校卒業生の割合は増していきます。

同じ訓練校で、同じ基礎技術を有している訳ですから、先輩後輩の関係は作り易くなります。

さらには会社が違っていても、同じ基礎技術を有していることに変わりはなく、お互いの信頼関係の構築は非常に素早くできます。

 

⑧   別の進路に行った同期の活躍を知り、人生における選択肢が生まれる

5年も経過すると、就職した会社でしっかり活躍し始めます。

中には転職したり、自分でやり始めるのも出てきます。そうした同期の活躍や、場合によっては木工業界からの離職などは、自分自身の今後を考える上でとても大きな情報となります。

同じ訓練校を同じ時に卒業した同期であっても、木工人生における選択肢が様々あることを知ることは、行動する上で大きな勇気となります

 

⑨   卒業生同士、同じ技術や知識を有しているので、共有できる価値観が生まれる

訓練校の卒業生と言うだけで、どの知識や技術は最低限有しているかと言うのが分かります。とても大きな安心感が初めて会ったお互いの中にあります。

例えば、独立して木工をやり続けている者同士がある時一緒に仕事をしたとしましょう。その際、お互いが訓練校の卒業生と言うだけで、ある程度、仕事を任せられるし、仕事内容も口頭で確認できます。

同じ言語や文化を有しているということは、仕事上とても重要です。

 

デメリットに関しては、メリットを理解した上で改めて考えてみると、上記①~⑥の事柄が把握できてくると思います。

もちろん、こうしたメリットやデメリットが全ての人に当てはまる訳ではないです。訓練校を出ていなくても、活躍している木工家はいくらでもいます。

ただ、確率で考えると圧倒的に訓練校を出た人の方が活躍しています。

 

ここでもう一度、「家具職人になる」「家具職に就く」方法を確認します

1⃣木工所・家具工房等に直接就職する

2⃣美術大学や工芸大学などで学び、就職する

3⃣職業訓練校(職業能力開発センター)で学び、就職する

4⃣突然、自分自身で木工所や家具工房を開く

 

1⃣木工所・家具工房等に直接就職する

デメリットでお伝えしたような可能性があります。

 

2⃣美術大学や工芸大学などで学び、就職する

私は行っていないので、見聞きした範囲になります。

大学は基本的にデザイン系が中心となり、技術系ではないところが基本です。

先生方がデザイン系が多く、木工家が評価され、教授になることが少ないことが理由のひとつかと思います。

また、美大系の卒業生で、木工職人の道に直接進む人は、数年に一人くらいしかいません。

全体でも美大を出ても、職人系で就職する人はほとんどいない時代です。

デザイン系で就職する人がほとんどのため、学習もデザインや発想に重点が置かれています。

 

ちなみに東京の職業訓練校(職業能力開発センター)では、6名以上の講師陣のうち2名が、その年の担任となります。

都の職員となりますが、ほとんどが元家具職人です。

そして、担任以外に客員講師が名を連ねます。その方々は現役の家具職人です。

江戸指物師・無垢家具職人・造作職人・大手木工所の工場長・NC工作士・家具塗師・家具製図士などなど。

15名程のプロの職人が、それぞれの得意分野で、そのノウハウを教えてくれます。

先生職ではなく、元プロか現役のプロが教えている、活きた技術の伝達が訓練校にはあります。

 

私が知っている限りですが、通うべきところもあります。

京都伝統工芸大学校 木工芸専攻

現在唯一、大学や大学校で木工や家具の製作技術をしっかり教えてくれるところです。

4年生ですし、講師陣は一流の伝統工芸士ばかりです。

美大並みの学費は掛かりますが、奨学金制度も充実しています。

ここで学べることは、すばらしい日本の伝統工芸技術ばかりだと思います。

 

ただ、ここで学んだ伝統工芸技術を、普段の家具製作で発揮できる職場は、今の日本の家具工場にはないのかも知れません。

日本の伝統工芸は本当に素晴らしいものです。世界屈指です。

しかし、そうした高い技能で作られた物が、工芸士が普通に食べていけるだけの価格で必要数取り引きされる土壌が日本からは無くなっています。

また、ここで優秀な成果を納めた卒業生は、高い知識や技能の基礎を身に付けています。しかし、それを活かせる現代家具の分野はまだ完成していません。

特に木工に関しては、伝統工芸の技能は伝統工芸の中だけに納まっています。日用品の家具の世界で、その工芸力を活かすことは容易ではないのかと思います。

しかしそこを、私たちのような日本の家具工房の先輩が、日本の現代家具の世界で、活かせるようになることが求められています。

毎年、この学校からは工房見学の希望があります。

学生気分でなく、自分の力で新たな地平を切り開く意思がある人が、見学にやってくることを私も期待しています。

日本古来の伝統工芸の技術での家具製作。私の最後の課題であり、作家活動としての課題です。

 

4⃣突然、自分自身で木工所や家具工房を開く

これができる人は凄い人です。

工房を開くはできますが、20年後に活躍しているか否かで考えると、かなり狭き門です。

木工の秀才かつ天才が進むべき道だと思います。

 

さて、職業訓練校(職業能力開発センター)について自分の経験も含め、プロローグです。

私が訓練校に通った20年程前は、木工は今よりもずっと人気のある仕事だったと思います。

それは、家具職になりたい人の数でも推測できます。東京の職業訓練校(職業能力開発センター)木工技術科の定員は各校30名です。通うためには試験に受からなくてはならず、国語と数学の筆記試験と面接があります。

私のときの試験会場では、150名程が試験を受けていました。5倍近い倍率だったということになります。さらに、おおむね30歳までと言う年齢制限もあります。

 

わたしは32歳でしたが、何とか合格しました。面接で印象的だったのは、「手のひらを見せてください」との質問でした。今の私なら、手のひらを見ただけで、その人の身体的な生い立ちや木工に向き不向きも推測できます。その時は、「これで何が正しく分かるのだろう」「これが職人の世界なんだな~」と、これまでにない面接に緊張した記憶が残っています。

残念ながら現在、基本的に若い方の中で家具職の人気は低くなっているようです。定員割れが続いています

一方、求人は増えています。私たちの頃、求人社数は30社もなかったと思います。それが今は100社を優に上回るそうです。

20年程前も、既に家具業界全体としては売上が下がり続けており、求人を出す余裕のある会社は少なくなっていました。こうした状況が久しく続いた結果、近年は高齢化がかなり進み、廃業する木工所も多く生じています。

現在、離職率も高いこともあり、職人数は既に減り過ぎており、木工業界は激しい人材不足に陥っています。

ここ数年、完全に状況が逆転し、卒業生は引き手数多となっています。私からすると「訓練校の卒業生レベルにこの給与が払えるのか」と思う求人が来たりしています。

 

訓練校は自分の適性を理解する大切な場でもあります。生徒の多くは、美大卒、建築学部卒、デザイン学校卒で、一旦就職したけども、自分の手でものづくりがしたくて、家具が作りたくて、家具職への転職を希望している人たちです。10代の頃からものづくりの世界にいる、いわばエリートが中心です。

訓練校に通う一年間は、そうした30名の中で、自分がどの位木工ができるのかを把握することができる貴重な機会になります。

わたしが通ったときには、既に32歳。ものづくりもしたこともなければ、絵も描いたこともなく、完全なる素人でした。なぜか「作ることはできる」と言う自信だけはありましたが、それが、どの位のレベルでの話なのかは気になっていました。ですので、訓練校では自分なりに必死にやっていくだけでなく、周りの同期と自分を比較しながら学んでいました。

結果、それなりに出来たようで、自分としても何とかなるはずだという感触は得ました。

そして、この期間に出会った何人かの職人さんや先生方から、「岸君のような人はなかなかいない」「岸君ならやれると思うよ」と言ってもらえたことは、全く保証もない世界に自分自身の将来を掛ける上において、ありがたい激励になったことでした。

 

長年、家具の仕事をしていて、「木工はつまらない」と思っている人に会ったことはないです。

ただ、「業務内容がつまらない」と訴える人はそれなりにいます。

「収入が少ない」は、かなりの人が思っているかも知れません。

そうした状況の中で、まず私が言いたいことは、「木工を生業にできる」ことは、それだけで、とても素晴らしく幸せなことだということです。

とは言え、今まで多くの方と話をしてきて、「木工なら何でも良い」と言う訳ではなさそうです。

また、好きな仕事ができるなら「収入も他の幸せも当面我慢できます」と言う人ばかりでもなさそうです。

 

だからこそ、「家具職人になる!家具職人になりたい!」と本気で考えている方は、木工の世界、家具職の世界に入る前に、職業訓練校などの機関でしっかりと基本かつ必要な技術や知識を学び、しっかり活躍できる人材になってから就職すべきなのだと思います。

「楽しい木工で、楽しい職務に付き、楽しく過ごせるだけの収入も得る」

まずは職業訓練校(職業能力開発センター)で自分が輝けるかを見極めるべきかとわたしは思います。

 

東京都立城南職業能力開発センター 木工技術科

https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/vsdc/jonan/fa-wood.html

東京都立城東職業能力開発センター 木工技術科

https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/vsdc/joto/kamokuh25.html

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