アクロージュファニチャー

家具職人を募集しています【家具工房アクロージュファニチャー 岸邦明の歩み】

2024年2月5日

工房主の岸邦明と申します。

しっかりと目標を持ち、その目標に向け継続して行動できる方を探しています。今回、私たちの工房がどのような工房であり、何を目指しているかを書いてみます。

 

アクロージュファニチャーは創業から20年を迎えます。既に20年という年月を要しましたが、やっと私が目標とする創作活動を行える土台ができた段階にいます。

私は建築系でもデザイン系でも美術系でもなく、営業系からこのものづくりの世界に入りました。それも33歳からのスタートです。当初は、こんなに歳いってから、技術を売りにやっていけるとは考えていませんでした。ですが、家具の職業訓練校に行きながら、家具・大工・建具職の名工方にお会いしお話を伺うにつれ、この木工の世界で生き残っていくためには、歳に関係なく「技術や経験を身に付けること」が重要だと気付かされました。

そこからはひたすら、技術を身に付け経験を積み、どんな木製品でも作れるようになることを目指しました。そのために、私はまずオーダーメイドの道を進みました。お客様の望む物は人それぞれ。非常に多岐に渡ります。その多種多様な想いを一つ一つ全て形にしていくことで、技術と経験を積み上げてきました。

小物からリフォームまで、無垢の木の仕事が基本ではありますが、取り組んだことがない仕事であればあるほど、向かっていきました。近年は顧客からの依頼を機に修理やリメイクも行い、昔の木製品や他社の家具も勉強していきました。

こうしてオーダーメイドで木工の技術や経験をインプットしました。一方、アウトプットのため、さらには注文をいただける限られたお客様以上に、より広くこの技術や経験を社会に役立てられる木工も目指し、木工教室を並行して開講してきました。

 

そうして20年の年月が過ぎました。数え切れない多様なオーダーメイドを制作してきましたので、制作する幅の広さや場数の多さでは誰にも負けないのではないかと思える経験をしました。

木工教室も様々な生徒の想いを少しでも多く叶えようと、改善をし続け、今や全国のどの木工教室よりも、幅広く奥深く「木工の楽しさ」をお伝えできる教室になれたのではないかと思っております。

ただ、こうしたことはHPからも読み取ってもらえるかも知れません。

 

今回、こうしたメッセージを載せることにした目的は、次のステップに進むための仲間を探しているからです。

私の最終的な目標は家具の作家活動です。一点一点を逸品レベルにし、作品として制作し納めていくことを目指しています。日本では家具はどうしても生活用品の延長で、大量にプロダクトとして生産され消費されるところがあります。ですが、欧米では家具はもっと生活を彩る大切なパートナーであり、心まで豊かにしてくれる物であったりします。定番化され、大量に作る家具の一つ一つに、そこまでの情熱を込めていくことは難しいのかも知れないと感じています。

私の家具・大工・建具の師となってくださった方々は、一点逸品の木製品を生み出していました。どれも高い技術と経験の上でしか表現できない至上の世界でした。ただ日本において、そうした創作活動は特に家具の分野では容易ではありません。欧米では家具は伝統工芸品として愛でコレクションする文化があります。日本にも指し物のような伝統工芸品において、そうした文化が残っていますが、私たちが今使用している家具を始めとする欧米の文化において、工芸品として愛でる文化は日本ではまだ成熟していません。成熟した文化がないということは、市場がほとんどないことになります。市場がない分野に正面からぶつかっていっても、ビジネスとしては成り立たないことになります。

尊敬する先輩方もそうした点でとても苦労されてきました。私が木工を始めた20年前には、効率が求められる文明が発達するにつれ、日本の文化である和の建築や建具の世界でさえも容易でなくなっていました。ましてや家具で一点逸品の創作活動を生業にしている作家は、ほとんど日本にはいないと思われました。

そうした中、私の家具制作の師となってくださった森戸雅之師匠は稀に見る家具作家です。欧米の家具工芸の世界を日本国内で表現されているほぼ唯一の家具作家です。森戸師匠の師匠はジェームスクレノフ(James Krenov)というキャビネットメーカー(Cabinetmaker)の巨匠になります。欧米にはファインウッドワーキング(Fine Woodworking)という創作活動があります。デザインや形が先にあるのではなく、自然物である木が先にあり、この木を活かすためにどのような家具がふさわしいか考え、一点一点制作していきます。基本的に同じものを2個は作りませんし作れません。

私は木工の世界に入る前の2年間、欧米をキャンピングカーで旅しました。その旅の中で、欧米の生活の中には、家具の文化が長い歴史の中で培われてきたことを知りました。今もそうした文化を大切にするご家庭があり、訪問させてもらえる機会が何度かありました。そうしたご家庭では、家具やインテリアをとても大切にし、それぞれの物の歴史を語ってくださりました。家具などのインテリアが心の豊かさを生み出し、祖先の生きた証にもなって受け継がれていく生活がありました。

2年間の旅を通して、私にとって、家具という物を創造するということは、心の豊かさをお客様にお届けすることでなくてはならないと自然に想うようになっていました。

とは言え、諸先輩方もそうした創作活動を生業にし続けることは容易ではなかった訳です。ましてや、33歳でこの世界に入った私が直ぐにできるはずもありません。そのため、オーダーメイドと木工教室で、様々なニーズと表現方法を学んできました。

家具工房という生業をビジネスとしても成り立たせるために、決して短くはない20年という年月を要しました。今私は54歳になります。それなりの年齢に達していますが、表現の世界で言えばスタートラインでもおかしくないと思っています。あのジェームスクレノフでさえ、生業として安定したのは60歳を回ってからと森戸師匠が言われていました。

 

現在、正社員となるお弟子たちは僅か5人です。できる限り小さな家具工房が理想です。一人一人の技術を高め、貴重となった美しき無垢材を大切に活かし、一点逸品の木製品を作る活動を高めていきたいと思っています。ものづくりは組織が大きくなれば、当たり前ですが売上も大きくしなくてはならなくなります。作る数が増えれば、工房全体として、心も身体も忙しくなっていきます。

音楽や絵画のような表現の世界は、追い詰められたときに良い物が生まれることもあるかも知れません。しかし私たちのような、長期に渡り作り続けるものづくりは、生活や心の安定が必要だと思っています。そうした創作環境を手に入れることを、この数年間目指してきました。

 

私のところのオーダーメイドはエンドユーザーからの仕事がほぼ100%となります。使い手と直接打ち合わせし、お納めすることが必須です。その方が的確にお客様の想いを理解し、形にできます。喜びの声も直接いただけますので、お弟子たちにとっても遣り甲斐になります。さらに大きな利点として、工期に追われることがまずありません。ですので、夜や休日の勤務もありません。36協定を守り、月30時間以上の残業を基本的に禁止しています。

4月からは選択勤務制も採用し、スタッフの2名は週休3日制となります。1人は子育てに入る前に、自分自身で制作販売していけるレベルになれるよう、勤務時間を減らし、自らの制作時間を増やし始めます。もう1人は、自分のやりたいことは「どのような木工か?どのような表現か?」を自ら見つめ直すために勤務時間を減らすことにしました。他の3人は家族や子供の関係があり、今は独立よりも安定成長を願っています。

全員が木工というもので繋がっていますが、一人一人の人生の夢や目標は違います。その夢や目標を工房全体として支えていける気持ちや体制を作り上げることに、全員で取り組み続けています。

ただ説明は難しいのですが、私は独立を支援している訳ではありません。やはり長い年月を掛け、技術と経験を積み上げてきたお弟子がいなくなることは、工房としては痛手です。ですが、工房として私として、お弟子たち全員の一生を保証することも容易ではありません。

ですので、私としてお弟子たちにしてあげられることは、独立しても決して失敗しないように、全力を掛け自分が培ってきたノウハウを伝えていくことです。

私たちはプロの家具職人ですから、大抵のものは作れるのが当たり前です。独立してから、やって行けるかどうかは、作る技術だけでは不十分です。デザイン力・経営力・販売力・資金力・人脈、こうしたもの全てが及第点に達していることが必要です。数年で身に付くような簡単なものではありません。日々、家具を制作しながら、何度も何度も、独立してやっていくため必要な技術や知識をお弟子たちに伝え続けています。

木工教室の講師にもお弟子たちには入ってもらっています。数多な生徒と接することによって、お客様が木工に対して望むことを感じてもらいます。自分たちの技術や経験のどこに価値があるかを理解していきます。どのように説明すれば、そうした技術や経験を的確に興味をもってもらえるように伝えられるかを、何度も説明する中で身に付けていきます。

人は思考を言葉にします。技術や経験も言葉にしなくては人に伝えられません。日々の家具制作の中で培ってきたものを言葉にして人に伝えていくことで、自分自身も正しく理解したことになります。さらに、人に教える技術は、お弟子たちが独立し、彼ら自身がお弟子たちを育て始めた時に大きな助けにもなります。そうした上でさらに重要なことがあります。自分の想いを人にしっかりと伝えるということです。それは人間力や販売力に他なりません。

教室に苦手意識があるお弟子もいますが、2年も講師を続けると、立派に自分の想いが伝えられるようになります。教えるということは教わるよりも何倍も速く、人の成長を促します。

この10年で、7人が私と工房活動を共にしました。その内の2名が独立しました。5名はより注意深く独立する準備をしているように感じます。正しく独立しなくては、これまで必死に貯めてきた開業資金を失うだけでなく、かえって今よりも収入が減ってしまうことになりかねません。独立してしっかりと幸せになることは容易ではないと思っています。

 

昨年、工房半地下に展示ルーム兼材木倉庫を構えました。私が10年以上掛け集めてきた数千枚の銘木良材が立ち並んでいます。こうした材の力によって、オーダーメイドのレベルも近年はジャンプアップしています。使用する材は丸太材を基本としています。北海道や岐阜で丸太を購入し、製材所で挽いて乾燥していただいた材を使用します。一つの制作物は一本の丸太で制作することを目指しています。それによって木目や色合いは統一され、完成した物のクオリティーは一点逸品になっていきます。

お客様の驚きは高まり、これまで見たことのないクオリティーの家具に、これ以上ない賛辞をいただけるようになりました。そして、金額としては決して安くはない家具をお納めしている訳ですが、リピーターとなってくださる方がどんどん増えています。オーダーメイドに関しては、お客様の想像を超える領域に踏み込み始めたように感じています。

 

この20年で、世の中も大きく変わりました。ものづくりに興味を持つ人は減り、優秀な職人も減っています。一方、デザインのレベルは高まり、廉価な物、大量生産品でも良い物が増え続けています。職人が手間と情熱を掛け、作り込むことの価値は全体として下がってきています。

家具の歴史の長いヨーロッパでさえ、巨象IKEAの進化などによって、家具のクラフト工房はほとんどが無くなっています。一点逸品のファインウッドワーキング(Fine Woodworking)という創作活動は既に世界的にも難しくなっているのかも知れません。

経営的には定番商品を作り、分業化を図り、20名程度の規模で制作していく方が利益は出ると思います。私も心が揺らぐときはありますが、初心を忘れないよう歩んできました。私はできる限り小さな工房を目指し、地域もどんどんと狭め、今は車1時間圏内を基本としています。

コンプライアンスは厳しさを増し、企業経営も難しくなり続けています。ものづくりの機械化や分業化が進み、作る喜びの魅力を失うことで、優秀な人材も減り続けています。広葉樹の枯渇は進み、手に入らない材、使用できない材が加速的に増えています。

 

20年で大きく変わったこの世界。この先の20年を見据え、私たちはどこを目指せば良いのでしょうか。コロナやAIは私たちにヒントを与えてくれたのかも知れません。人々はより便利な都市部か、より自然豊かな僅かな地域に移り住み、リモートで多くのことが成り立つように加速していきそうです。そして、人よりも優秀なAIに人は従うようになっていくのでしょうか。

私たちのものづくりは自然素材の無垢の木素材を活かし、人が手数を掛け作り上げる世界です。効率よりも情熱に価値を見出せる人間だからこそ生み出せる世界は、最後の牙城として残り続けることはできないのでしょうか。

 

哲学のような思考がいつまでも続きますが、20年掛け準備はできました。いよいよこの表情豊かな材たちを活かし、作品を作り始めます。

私としては2パターンで仲間を探しています。

一人目が、無垢家具制作経験者で即戦力となる方

二人目が、将来、管理職となる方

特に二人目は、私と共に長期的に工房を運営し、作家活動を共にしていこうという同志に近い方になります。

現在私たちの工房には、修理やリメイクは受け付けられないほど多くの問い合わせがあります。オーダーメイドも半年先までは一杯に詰まっていて、急ぎのご依頼にはお答えできなくなっています。「何年も探してきたのですが見つけられなくて…」「岸さんに出会えて本当に良かったです…」というお客様が多くを占めます。モノが溢れる時代になったからこそ、私たちのような工房が、より必要となるのかも知れません。全てのご依頼者様にご協力できる状況ではなくなっておりますが、今の体制は、お弟子たちが独立する際、安定するまで支えて上げられるはずで、とても有難いことです。

 

詳細は書けませんが、作品ができれば半地下展示から羽ばたき、SHOPを構えます。屋号であるACROGEにはACROSS GENERATIONの略語の造語で「世代を越えてという想い」が込められています。

私たちのような家具職人が一点逸品の創作活動をし、SHOPで展示販売し続けることは容易ではありません。工房の傍らにお弟子たちが制作できる空間を用意し、一緒にSHOPで創作家具を共演することが私の夢です。

一点逸品の家具が集まり、そうした作家が集まり、お客様も集まるようになれば、日本に新たな家具文化が根づくきっかけになるのではないかと思っています。今はまだ夢の段階ですが、そうして私は次世代にバトンタッチしていければと願っています。

 

もし、同じような想いを持っている家具職人がいましたら、ぜひ遊びにいらしてください。

夢や目標を語り合えたらと思います。お待ちしています。

 

令和6年2月5日

家具工房アクロージュファニチャー 工房代表 岸邦明

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